視点

地政学的な変化がアジアの次なる成長にもたらす影響

2026年3月25日

2025年の終わりに韓国の慶州にて開催された、21の加盟国と地域が参加したアジア太平洋経済協力会議の年次首脳会議で、アジア地域が「極めて重要な転換期にある」ことが宣言されました。このような宣言が、アジア、欧州、中東を結ぶ古代の交易路であり、グローバル化の基盤となったかつてのシルクロードの主要拠点、慶州で行われたことは意義深いものがあります。

アジアは貿易、交流、技術革新の戦略的交差点であり、その発展の歴史は世界の潮流から大きな影響を受けてきました。これは今現在も変わりありません。

韓国の慶州にある月精橋(ウォルチョンギョ)

アジアは貿易を取り巻く環境の変化や関税政策に直面しつつも、他の地域を上回る成長を遂げています。2025年の世界全体の成長の6割はアジアに寄与しており、今年もアジアから同様の貢献が見込まれています。1

マッコーリーグループのアジアCEO 兼マッコーリー・アセット・マネジメントのアジア太平洋地域インフラストラクチャー共同責任者であるヴェレーナ・リムは、「過去12ヶ月間、世界は大きく変動しましたが、アジアはそれに持ち堪え予想を上回る成長を遂げました。」と語っています。

また、ヴェレーナ・リムは「東南アジアでは国内経済が成長を牽引する一方で、北アジアの韓国や日本など貿易に依存する地域では多角化が大きく進んでいます。」と述べています。

アジアが「極めて重要な転換期」にある中で、マッコーリーのアジアチームは次の3つのテーマが新たな投資機会を切り開くとしています。

  • 多くのマーケットとセクターにまたがる輸出の多角化

  • 中流階級の急速な拡大がもたらす都市化とインフラ需要の成長

  • AI とデジタル能力を中心とした地域のデータ、クラウド、オンショア技術への投資の加速

マッコーリーのコモディティーズ・アンド・グローバルマーケッツのアジア責任者、ダニエル・ヴィゼルによると、多くの市場が独自のスピードで成長を遂げるアジアで、投資の機会を有効に活用するには、地域の知識に基づきカスタマイズされた戦略が不可欠であるとしています。

アジアの11の市場でマッコーリーが30年にわたって実績を築いてきたことを挙げ、「一律的なアプローチは通用しません。お客様のニーズに確実にかつ的確に応えるためには地域に密着した専門知識と理解が必要です。」と語ります。

輸出の再考: 多角化、再構築、新たな成長の動力源

アジアの次なる経済成長は拡大の規模だけではなく、輸出の戦略的な多角化が中心となります。世界貿易は堅調ながらも関税の圧力が高まる中で先行きの不透明感が高まっています。しかしアジアは先端テクノロジーのバリューチェーンへ深く食い込み、市場リーチの拡大とともに世界経済の構造にさらに強固に組み込まれてつつあります。

「高度なイノベーションを作り出す拠点としてのアジアの役割は続きます。今年は国際情勢の変化の中でその地位はさらに高まるかもしれません。」と語るのは マッコーリー・キャピタルのアジアコンテンツ (リサーチ&セールス) の責任者であるクリスティーナ・リーです。

リーはアジアがイノベーションの二次的な波及効果の広がりを牽引していることを指摘します。電動自動車(EV)分野における BYD の成功、ファーウェイやシャオミといったエレクトロニクス産業、そして半導体大手の TSMC の成長など、アジアが技術生産の主要な拠点であり続ける証拠を挙げ、「アジアは破壊的な革新をもたらし次にくる進化の波を牽引することに長けているのです。」と述べています。

この変化の中心には引き続き中国があります。米国による関税引き上げは中国政府が米国市場以外へ輸出の多角化を加速させました。昨年は欧州、ASEAN 諸国、アフリカへの輸出が大きく増え、対米輸出が2割減ったにも関わらず、中国全体の輸出総額は 6.6 %伸びました。2

二国間貿易の拡大と、工作機械・自動車部品・エレクトロニクスの需要の急増に支えられ、中国はASEAN 諸国とのサプライチェーンの連携を強めるなど輸出エコシステムの再構築を実現しています。

さらに、多くの中国企業はそれぞれ独自の「チャイナプラスワン」戦略を取り入れて、製造や調達拠点を中国以外、特に東南アジアに少なくとも1カ国は置くようにすることで多角化を図っています。

「東南アジアや南アジアの市場はこの戦略によって恩恵を受けましたが、それでも経済成長の大半は国内市場の成長と外需によって支えられています。」とヴェレーナ・リムは述べています。

国内市場の状況は、マレーシアの半導体からベトナムのエレクトロニクス、そして台湾の自動車部品など地域によって異なり、インドネシアは製造拠点としての地位を確立しつつあります。3

一方で、輸出において最もダイナミックに変わっているのはインドです。年初のインド・欧州連合首脳会談で締結された協定を含む新たな貿易協定によって、インドはエレクトロニクス、携帯電話、自動車部品、EV 技術において急速に規模拡大を図っています。

クリスティーナ・リーは「インドはこれまで輸出主導ではなく国内消費が大きかったという点で他のアジア諸国とは歴史が異なっていたことは興味深いですが、この状況は変わり始めており、こうした変化は今後さらに顕著になってくるでしょう。」と述べています。

中流階級の拡大成長: インフラ、輸送、都市の成長を支える

アジアの社会経済を形作っていくのは、人口の増加とともに需要と供給の関係を決定する中流階級の台頭にあることは以前から指摘されていました。

2030年までにアジアが世界の中流階級の3分の2を占めるようになると言われています。4 わずか10年前にはその割合が3分の1であった5 ことを考えると、これは非常に大きな変化であると同時に、その変化は市場の成熟度によって異なる形として現れることになります。

インドと東南アジアでは都市化と中流階級の成長が有料道路や輸送施設の需要の増加に繋がっています。ヴェレーナ・リムは2018年にインドで初めて行われた「toll-operate-transfer (ToT) 」オークション6 を通じてマッコーリーが取得した有料道路ポートフォリオを例に、民間企業に新たな機会が生まれているとしています。

「有料道路、コネクティビティに圧倒的なニーズがあるということは、国内企業が資本を収益化して再利用する必要があることを意味し、そこにプライベート投資の機会があることになります。」

プライベート投資はまた、陸上輸送の拡大に伴う炭素排出量の増加への対処においても重要な役割を担います。例えば、世界で最も人口の多いインドの陸上輸送はエネルギー関連の二酸化炭素排出量の12 %を占めており、2050 年までにはこの割合が2倍になると予測されています。7

これに対し、インド政府は2030年までに国内の自動車販売の 3割を電動車にする目標を掲げており、ここに持続可能な輸送の需要、つまり投資機会があると考えられます。

「インドでは脱炭素化に向けた動きが大きく加速しています。」ヴェレーナ・リムは、マッコーリー・キャピタルによるインドの急速充電インフラの大手プロバイダーである ChargeZone への投資、マッコーリー・アセット・マネジメントによる Vertelo の立ち上げなどをあげます。 Vertelo は大規模なEV導入に向けた車両電動化ソリューションのプラットフォームとなる予定です。

「インド政府は急成長する道路輸送からの炭素排出量を抑制するための政策を掲げ、電動化を強く推し進めています。電動化に伴う市場は2千億米ドルの規模になると言われており、新たな雇用と国内製造業の活性化に役立つでしょう。」

インドの e-モビリティーへの移行を支えるファイナンス

Vertelo

  • マッコーリー・アセット・マネジメントは2024年にGreen Climate Fund (GCF)とのブレンデッド・ファイナンスとして、インドの車両電動化ソリューションのプラットフォームとなる Vertelo を立ち上げました。

  • 2025年7月、Vertelo は機関投資家向け増資として2億5百万米ドルの民間資本を集めました。GCF からの追加資本とともにこの民間資本によって4億5百万米ドルに達する大規模な気候変動対策のソリューションが誕生しました。

  • Vertelo は10年間で15億米ドルという調達目標に近づき、インドにおける広範な EV の普及を支えることになります。

Chargezone

  • 2023年、マッコーリー・キャピタルは、インド全土で充電ステーションネットワークを運営する ChargeZone に投資し、バスや商用車の運営を行う事業者を含むお客様を支援しています。

  • インドにおける持続可能な都市交通への移行を目指すChargeZone への投資支援を通じて、炭素排出量の軽減とクリーンモビリティの促進というインドの目標に助力します。

同案件のためにマッコーリー・アセット・マネジメントは、Green Climate Fund をアンカー投資家とすブレンデッド・ファイナンスプラットフォームを構築しました。ヴェレーナ・リムは、商業資金と開発資金を組み合わせたユニークなこのパートナシップモデルはエマージングマーケットにおけるブレンデット・ファイナンスの推進を体現しているとしています。

輸送とエネルギー分野のほか、地域の高齢化とともにヘルスケアインフラも重要な分野です。国連は今後25年で65歳以上の人口はほぼ2倍になり、2050年には 15億8千人に達するとしています。8

アジアはこの社会変化の最前線にあり、香港、シンガポール、韓国、台湾、日本は2050年までに高齢人口の割合が最も高くなるとされています。 9 「東南アジアでは65歳以上の中流階級が増えており、求められているのは品質の高いヘルスケアサービスの提供です。」とヴェレーナ・リムは続けます。

中流階級の拡大は、限られた財源で需要の拡大に応じようとしている公的なヘルスケアシステムに重圧となる可能性があります。「政府の財源には往々にして限りがあります。つまり高齢化社会に欠かせないサービスを提供する民間病院の重要性は今後さらに高まるでしょう。」

韓国のヘルスケア産業のイノベーションを支える

Genuone Science

  • 2024年、マッコーリー・アセット・マネジメントのプライベート・エクイティ・ファンドは韓国の医薬品受託開発と製造を行うGenuone Scienceを買収しました。

  • Genuone Science は低分子医薬品の研究開発と最先端のヘルスケア製品を高い水準で大量生産できる技術を持つ企業です。

  • 韓国の65歳以上の一人当たりヘルスケア支出は、65歳未満に比べると4倍にも達しています。10

AI とデジタルの重要性が地域に根差したデジタルインフラと戦略的 オンショアリングを牽引

マッコーリー・キャピタルのグローバルデスクストラテジー責任者ヴィクター・シュヴェッツは、2025年のレポート『Rights, Wrongs & Returns』の中で、「AIが市場と経済にもたらす影響は、今後少なくとも10年間、労働市場から生産性、地政学に至るまで、ほぼ全ての事柄を大きく変動させる原動力であり続けるだろう。」としています。11

この予測はすでにアジア全域で現実のものとなっています。香港、シンガポール、韓国、日本、中国など成熟した市場ではデータセンター拡充の動きが盛んになり、インド、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムといった新興国でもデータセンターの開発に乗り出しています。これら全ての地域で、バッテリーエネルギー貯蔵システム、通信タワー、光ファイバーケーブルなどデジタルインフラが必要とされています。

マッコーリー・アセット・マネジメントが早い時期からデータセンターセクターに注目、2018年に米国を拠点とする Aligned Data Centres に投資し、それがその後の AirTrunk の買収とアジア太平洋地域への拡大につながったとヴェレーナ・リムは指摘します。

「私たちは米国チームから、そして Aligned 買収案件から多くを学びました。それがアジアにおけるデータセンターセクターへの投資機会発見の手助けとなりました。」

アジア全域の地域社会に不可欠なデジタルサービスを提供するニーズが高まっていることを受け、マッコーリー・アセット・マネジメントはデータセンターセクターを支える強力な投資の経済性とその急速な成長に可能性を見出しました。

「私たちはローカルチームの知識とグローバルな専門知識を組み合わせることでデータセンター事業の拡大を可能にしました。私たちが生み出す価値、強い回復力のあるデジタルインフラ資産を特定し、投資して成長させる能力を反映した確実なリターンをもたらしています。」

マッコーリーは業界で得た知見をデジタルエコシステム全体の投資に活用しています。例えばマッコーリー・アセット・マネジメント主導のコンソーシアムが2022年に相当数のマイノリティー出資を獲得した東南アジアのデジタルインフラプラットフォームである Bersama Digital Infrastructure では2万4千基以上の通信タワーを保有するインドネシアの大手独立系通信タワービジネスに投資しています。12

AI に特化した専門知識は、アジア各国政府がデジタルインフラを国家安全保障の問題と捉えて国内でのデータ保存、ソブリンクラウドの枠組み、サイバーセキュリティーの厳格化などを進める中で極めて重要になってきています。

「各国政府は国家安全保障は外部に依存できないことを理解しており、テクノロジーサプライチェーンの拡大を自らの主導のもと、自給自足で進めたいと強く考えています。」とクリスティーナ・リーは述べています。

AI の成長はまたデジタルインフラとエネルギーシステムの結びつきをも強めており、AI 利用の増加で世界中のデータセンターでエネルギー需要が急増しています。国際エネルギー機関(IEA) は世界のデータセンターの電力需要は2030年までに2倍以上の 945 テラワット時 (TWh) に達すると予測しており、これは現在の日本全体の電力消費量を上回る量です。13

2020年から2030年までの機器別の世界のデータセンターの電力消費量のベースケース

2020年から2030年までの機器別の世界のデータセンターの電力消費量のベースケース

出所: IEA

アジア各国は、AIとデジタルインフラの成長によるエネルギー需要に対応するため、すでに将来を見据えた対策を講じています。マレーシアはAIの野望を実現すべく100億米ドルを投じて国の電力網をアップグレードすることを決定し、日本、韓国、台湾はいずれも電力およびエネルギー利用の増加を管理するための枠組みを発表しました。14

日本の対応は特に急を要しています。データセンターの急速な拡大が気候変動対策とクリーンエネルギーの目標と対峙しているからです。「AI の成長は日本のエネルギー需要における根本的な課題に直面しています。」とダニエル・ヴィゼルは述べています。

日本はさらに、過去12ヶ月の間に為替レートの大きな変動というプレッシャーにも見舞われてきました。ただ、2026年初は一時的に対米ドルにおいてある程度の円高が進みました。

「電力市場における私たちの役割は、価格変動に対するリスク管理を強化し逆境に耐える多角的な電源供給を支援することです。それこそが長期的なデジタルインフラと経済の成長を支えることになります。また私たちの通貨ヘッジ戦略は企業が不確実性の高い環境を乗り越える力にもなります。」

様々な投資機会によって結ばれた多種多様な市場

アジアの市場は一枚岩というより寄せ集めのモザイクのように複雑な様相を呈し、成長の軌跡、政府の対応、消費者の行動は、貿易を取り巻く環境、テクノロジーの進化、そして人口動態の変化によってますます複雑化しています。

マッコーリーは、クライアントや投資家の皆さまがさまざまな選択に向き合う場面で、より良い判断をサポートできる体制にあります。

「私たちはこの30年間、アジアの地で活動を続け、お客様を中心に添えた取り組みを進化させてきました。」ヴェレーナ・リムはマッコーリーグループが早くからアジアに注目し、規律ある投資戦略を進めて持続的な関係を築いてきたことを強調します。

「地域に密着した目線で、地域で実行することを組み合わせることこそが、市場で信頼、理解、タイミングを勝ち取るために重要な方針です。」

今後アジアが変革していくには、短期的な視点を超えて政府、機関、地域社会と協力し逆境に耐えられる持続可能な成長と革新をもたらすことができるパートナーの重要性がますます高まっていくと考えられます。

ヴェレーナ・リム

マッコーリーグループアジアCEO

マッコーリー・アセット・マネジメントアジア太平洋地域インフラストラクチャー共同責任者

クリスティーナ・リー

マッコーリー・キャピタルアジアコンテンツ (リサーチ&セールス) アジア責任者

ダニエル・ヴィゼル

コモディティーズ・アンド・グローバルマーケッツアジア責任者


出典

  1. ‘Asia’s Economic Growth Is Weathering Tariffs and Uncertainty’, International Monetary Fund, 16 October 2025, www.imf.org.
  2. ‘China's trade ends 2025 with record $1.2 trillion surplus despite Trump tariff jolt’, Reuters, 14 January 2026, www.reuters.com.
  3. ASEAN Strategy, 2026: Bottom up over top down’, Macquarie, 3 December 2025, www.macquarie.com.
  4. ‘The rise of Asian global players', McKinsey & Company, 28 January 2025, www.mckinsey.com.
  5. ‘An Emerging Middle Class’, Asian Century Institute, 26 March 2014, www.asiancenturyinstitute.com.
  6. ‘NHAI Closes its first Toll-Operate-Transfer Project’, Press information Bureau, 29 August 2018, www.pib.gov.in.
  7. ‘Transitioning India’s Road Transport Sector’, International Energy Agency (IEA), July 2023, www.iea.org.
  8. ‘Leaving No One Behind In An Ageing World: World Social Report 2023’, United Nations, January 2023, www.un.org.
  9. ‘Aging Populations’, Statista, www.statista.com (Accessed 9 February 2026).
  10. ‘Korea's Healthcare System Part II: Policies to Contain the Growth of Healthcare Spending’, The Korea Economic Institute of America, 20 August 2024, www.keia.org.
  11. ‘Rights, Wrongs & Returns’, Macquarie, Viktor Shvets, 21 November 2025, www.macquarieinsights.com.
  12. ‘PT Tower Bersama InfrastructureTbk (TBIG) Announces Its Third Quarter 2025 Financial Performance’, TBIG, 31 October 2025, www.tower-bersama.com.
  13. ‘Energy and AI’, International Energy Agency, 10 April 2025, www.iea.org.
  14. ‘Energy Rules Tighten for AI Data Centers in Asia’, Arc Media Global, August 2025, www.arcmediaglobal.com.