視点

林立する投資機会:域内のファンダメンタルズが重視されるアジア投資

アジアは、潜在的な成長性を秘めた市場であり、事情通の間では、アジア市場のファンダメンタルズが改めて注目されつつあります。

マッコーリー・グループのアジアCEOであるヴェレナ・リムによると、海外投資家は長期的成長の見込める新たな投資機会を模索しており、最近ではアジア地域の投資環境が注視されています。

とはいえ、多くの側面から、この前向きな見方には十分な注意が必要です。投資を成功に導くためには、入念なリサーチとデュー・デリジェンスが大前提となります。というのも、域内のメガトレンドをしっかりと把握したうえで、明確な戦略を実行することによってのみ、投資家はダイナミックで目まぐるしく変化するこの市場において、足がかりを築くことができると考えられるためです。

マッコーリー・アセット・マネジメントのシニア・マネージング・ディレクターでもあるリムにとって、日々の業務の中心となるのは、民間資本が社会に提供できる本質的な利益は何であるかを明確化することです。これを実現させる鍵となるのは、アジアにおいてより優れたビジネス基盤の構築を支援する手段を見出すこと、つまりは、高品質なインフラに対する継続的なニーズに応えられるプロジェクトに投資することです。

急速な発展を遂げる他の地域と同様、アジアでも、一部の地域では現代の経済活動において求められるインフラ投資の需要にうまく対応できずに苦労してきた経緯があります。そのため、多くの東南アジア市場ではインフラ設備が不足しており、最終的には民間投資への道が開かれると考えられます。

「当社のリアル・アセッツ・チームは、公的資金が現時点で達成できることと、インフラ投資においてその公的資金の不足を補うために今後どれだけの民間資金が必要とされるのかを見極めていく役割を担っています」とリムは語っています。

幸いなことに、この官民の資金ギャップは縮まりつつあります。ただ、これまでの状況を踏まえると、このギャップが縮小するペースはさほど速まっていません。世界的なパンデミックに伴う目先のニーズへの対応を迫られている国々では、当然のことながら経済の復興と回復を最優先課題としており、ほとんどの国の財政収支は赤字に陥っています。2020年だけで見ても、GDP成長率はシンガポールが前年比6.3%減、インドネシアは同6.2%減、フィリピンでは同7.3%減、中国で同6.2%減、インドは同9.5%減となるなど、収支の不均衡が顕在化しました1

それでも、域内の景気回復を加速させる可能性のある、様々な戦略上の優先事項が待機しているとリムは見込んでおり、「これらの新興市場の多くで、強靭かつ持続可能なインフラを支えるために民間資本を投入する必要性が高まっています」と指摘しています。

 

デジタル化という共通因子

マッコーリーは、インフラ投資が最も影響力を発揮できる分野を特定するため、国別チームを複数編成して、市場における新たな投資機会の発掘に取り組んでおり、それぞれの投資機会について、現地の状況を勘案し、評価を行っています。

アジアはその多様性と複雑さゆえに、様々な課題を抱える市場ではあるものの、こういった特徴が、市場のダイナミズムを形成している部分もあります。「例えば、インドへの投資はフィリピンや韓国の市場に投資することとは全く違います。そのため、当社は常に、何をターゲットに投資を行うかという点については、国単位で個別にボトムアップのアプローチを取ってきました」とリムは解説しています。

リムの見解によると、「特に規制整備と投資環境の観点から見た場合、それらは国によって全く異なる段階にあります」。とはいえ、アジアでは一連のメガトレンドが共通していることは明白で、域内のどの市場にも影響を及ぼしています。そのようなトレンドのなかで、現在最も脚光を浴びているのが、デジタル化です。

「アジアへの資本流入が増加すれば、資金の流動性が高まり、そうした資産に価値を置く買い手がより一般化することを意味します。そして最終的には、インフラストラクチャー分野で変革をもたらすような投資機会につながると考えます」

ヴェレナ・リム
マッコーリー・グループ アジアCEO

デジタル化は、アジア全域で変化の時を迎えているトレンドですが、最近の事象をきっかけに一段とデジタル化に向けた投資の必要性が叫ばれています。「当社は、パンデミック発生前から、データ管理とインターネット接続が日常生活と世界の経済活動の基盤であると考えていました。そのトレンドが顕在化しつつあるなかで、パンデミックによってその勢いが加速しました」とリムは考察しています。

アジアではパンデミックによって外出が制限される中で、人々の救いとなったのは、インターネットを経由して仕事や買い物、他者とのコミュニケーションが継続できたことでした。結果的に、域内ではインターネットの利用が急増し、アジア全体でデジタル化が加速しました。「当社のポートフォリオについては、最新のアジア地域インフラストラクチャー・ファンドの40%近くを、デジタル・セクターの様々な分野に幅広く投資しています。デジタル・セクターは確実に、域内共通のトレンドとなっています」とリムは解説しています。

多くの場合、デジタル化の進行に伴って、域内で高速データ通信の供給が需要に追いつけていない市場が浮き彫りとなり、複数ある課題の1つとして認識されていた事象が、戦略上の弱みに一変しました。マッコーリーは、これをデジタル・インフラ(具体的には通信塔、データセンター、光ファイバー通信、ならびにこれら主要3資産の周辺技術)に投資を行う顧客に価値を提供できる好機の到来であると考えています。

 

オーナーシップの変化

アジア地域において、有事には強靭で持続可能なインフラが戦略上で最優先されるべき事項であり、早急に対策を講じる必要があることをいち早く認識した国は、インドネシアとフィリピンでした。

例えば、インドネシアでは2016年に、外資系企業による国内の通信塔の所有を全面的に禁止する法案が成立しました。その後、新投資リストと呼ばれる同国の大統領規定2021年第10号で、このような規制が完全に撤廃されました2。2021年後半には、フィリピン政府が、電気通信を含む複数の産業で、外資系企業による保有率上限を撤廃しました3

東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局は、東南アジアが「今後数年間で世界で最も急速に成長するデータセンター市場の1つであり、北米およびその他のアジア太平洋諸国の成長を上回る」と予測しており、このトレンドはさらに加速すると見ています4

国連貿易開発会議(UNCTAD)の発表した最近の報告書によると、ASEANのデータセンターの市場価値は、2019年時点で19億米ドルとなり、「2024年までに13%の年複利成長率で35億米ドルに達すると見込まれています。2020年、ASEANは295か所以上のデータセンターを設置しました」5

このトレンドは、ASEAN加盟10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)とそのFTAパートナー5カ国(オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国)との間で2022年1月に発効された、新たな自由貿易協定である地域的な包括的経済連携(RCEP)によってさらに強まることになります6。2020年時点で、ASEANはRCEP加盟国内の全データセンターの23%を占めています7

2021年時点で、ASEANのデータセンターの40%以上は、外資系企業により所有されているか、合弁事業が関与しています8。「現在、一段と有利な規制環境が整いつつあります。特に、デジタル化の分野で近隣諸国に後れを取っていたことを考えると、これらの分野では、むしろ政府が外国や民間部門からの投資を後押しする機運が高まったことで、投資家が特定の投資機会に参入し、詳細な調査を行うきっかけがもたらされたのではないかと考えています」とリムは指摘しています。

2022年前半には、マッコーリー・アセット・マネジメントが主導するコンソーシアムがベルサマ・デジタル・インフラストラクチャーの株式を取得しました。この企業は、インドネシアの独立系大手通信塔事業者で、20,500基以上の通信塔と39,000以上の不動産権を保有するタワー・ベルサマの株式の73.3%を保有しています9

また、フィリピンでは、フィリピン長距離電話(PLDT)が通信塔5,907基を770億フィリピンペソ(15億米ドル)で売却する取引が成立し、フィリピン国内資産の外国人投資家への売却としては過去最大規模となり10、市場関係者の注目を集めました。

 

より明るいアジアの展望

アジア投資への関心と今後の見通しに関しては、デジタル化、エネルギー転換、都市化、消費などのメガトレンドの成熟が投資家のセンチメントの向上に一役買っています。

「投資家の動きを見ると、アジアにはより多くの資本が流入しています。私が15年ほど前にシンガポールに移り住んだとき、アジアを市場として捉えるファンド・マネジャーやプレーヤーは多くありませんでした。当時の投資家はアジアよりも、欧州、米国、豪州などの先進国市場に目を向けていました。現在の投資家は、これら以外の市場にも分散投資を図っており、アジアの潜在的な成長を捉えるべく、より多くの新興市場に触手を伸ばしています」とリムは指摘しています。

こうした市場が成熟するにつれて、アジアの投資案件の規模は拡大しています。リム曰く、「かつて、当社は比較的小規模の投資案件に注目していましたが、現在は複数の投資家に共同投資の機会を提供できるような案件や、これまでは容易に参入できなかった投資対象にも目を向け始めています」

マッコーリーは官民の投資チャネル間の架け橋となるパートナーであることを自負しており、アジアにおけるファンド・マネジメントの信頼性の向上と、注目されている資産の価値の向上のためには、域内での競争が活発化することが望ましいと考えています。

「アジアへの資本流入が増加すれば、資金の流動性が高まり、そうした資産に価値を置く買い手がより一般化することを意味します。そして最終的には、インフラストラクチャー分野で変革をもたらすような投資機会につながると考えます」とリムは指摘しています。